「仏さんに見せられないような帳簿はつけるな!」

2016年05月08日

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4月まで放映されていたNHK連続テレビ小説「あさが来た」の舞台・加野屋のモデルになった加島屋は大坂の豪商で、西本願寺の篤信のご門徒でした。江戸時代に西本願寺が学問場を建設する時にも、土地や建設資金を寄進して本願寺を支えてくれました。ちなみにその学問場が現在の龍谷大学です。ドラマの中でも、波瑠さん演じる白岡あさ(モデルは広岡浅子)が日本初の女子大学の設立に尽力されていました。このような仏教精神をもとにした社会貢献が、その後の生命保険会社の創業にもつながっているようです。

近世日本の経済の中心地・大坂は石山本願寺の寺内町として発展し、「大坂商人」のほとんどが浄土真宗のご門徒でした。大阪城が築かれた場所が石山本願寺の跡地でもありますが、御堂(本願寺)の鐘の音が聞こえるところで商売をすることがひとつのステータスだったとのこと。北御堂(西本願寺津村別院)と南御堂(東本願寺難波別院)を結ぶ道路が「御堂筋」と呼ばれました。御堂で朝夕お参りをして、教えを聞きながら「仏さんに見せられないような帳簿はつけるな!」と言って誠実な商いをしてきたのです。

「近江商人」もまた、現代でもその流れをくむ大企業が多いことで有名ですが、「三方よし」(売り手よし・買い手よし・世間よし)の精神を大切にしてきたといわれます。売り手の都合だけの商売ではなく、買い手も心から満足し、さらには商いを通じて世間にも貢献していく。商売によって得た利益によって橋や道路や学校などを作り、社会にも大いに貢献することを大切にしてきたのです。最近聞かれる「ウィンウィンの関係」とはひと味違うのではないでしょうか。

商売やさまざまな人間関係など、そうした私たちの日常生活の中でこそ教えが響いてくる。「損得」「勝ち負け」「好き嫌い」といった私たちの日常のモノサシのほかに、もうひとつ仏さんのモノサシをいただきながら、先人は歩んでおられたのでしょう。仏教は深奥な山の修行場や仏教書の中にあるわけではなく、ひとり一人の生活がそのまま仏道となることを示してくれているように思います。